マイコワークス社について

マイコワークス(MycoWorks)の歴史は、芸術家であり実験家でもあったフィル・ロス氏が、キノコの持つ可能性に魅せられたことに始まります。ロス氏は、キノコの根である菌糸を使い、家具や建材など様々な形に育てる実験を重ね、その中で「菌糸から革を育てる」という大胆な発想にたどり着きました。2013年、共同創業者のソフィア・ワン氏と共に、従来の革作りとは一線を画す新たな素材開発に乗り出したのです。

開発初期の菌糸素材で作った椅子

 

菌糸素材の開発

マイコワークスが目指したのは、従来の革と同じ質感と耐久性を持ちながら、環境への負荷を大幅に削減できる素材でした。彼らは、Fine Myceliumと呼ばれる独自技術を開発。菌糸を平らなシートに育てるプロセスは、まるで自然が自らの形を整えていくかのようです。最初は試行錯誤の連続で、何度も失敗を重ねながらも、技術者と共に根気強く改善が繰り返されました。

開発初期は、菌糸素材が従来の革に比べて劣る部分もありました。しかし、数年にわたる改良とテストの末、菌糸素材を動物由来の革に匹敵する柔軟性と耐久性、そして独特の風合いを持つまでに進化することに成功しました。これにより、従来の革の美しさとナチュラルさを活かしつつ、環境に優しい選択肢としての地位を確立したのです。

2023年に稼働した、サウスカロライナ州にあるマイコワークスの培養工場

 

菌糸素材の特性とマイコワークスの提案

マイコワークスが生み出す菌糸素材は、農業廃棄物などの再利用可能な資源を原料とし、従来の革生産に比べて水や土地の使用量が大幅に少ないため、環境負荷が極めて低いという特徴があります。また、菌糸素材は、染色、エンボス加工、仕上げといった伝統的な革加工技術をそのまま活かせるため、革の職人が長年培ってきた技術との親和性が高いのです。

マイコワークスも、革に取って代わるのではなく、従来の革と共に菌糸素材をラインナップに加えることを提案しています。伝統を守りつつ、新たな可能性に挑戦するMycoWorksの姿勢は、革を愛する人々にとっても大いに共感できるものになるといえます。