ロカド社について

ロカド社のロベルト・グルビッキ氏

ロベルト・グルビッキ氏。

ロカド社のコードバンは全て彼の努力と情熱が作り上げた。

 

ロカド社の成り立ち

ロカド(ROCADO)社は、1982 年にドロータ・グルビッキ氏によりイタリア・トスカーナ州にて設立されました。社名の ROCADO は、息子のロベルト(ROberto),娘のカテリーナ(CAterina)、そしてドロータ(DOrota)自身のそれぞれの名前の頭文字から来ています。創業時は牛の原皮を主に扱っていましたが、そこから牛ショルダーやベリーの渋クラスト等にも取り扱いを広げていきました。息子のロベルト氏が入社してからは、ポーランド系イタリア人という自身のルーツを活かし、最高級と言われるポーランド産の馬の原皮の取り扱いを始めます。幾度となくポーランドへ足を運び、高品質で安定した馬原皮の供給ルートを開拓すると、イタリアやアメリカ、日本などの馬革を扱うタンナーへの原皮の供給を広げていきました。

イタリア・サンタクローチェにあるロカド本社

ロカド本社。タンニンなめしのタンナーが立ち並ぶ

サンタクローチェ地方に位置している。

 

コードバンとの出会い

 全ては、ロベルト氏が営業のために弊社(株式会社石井)にコンタクトを取ってきたことから始まりました。彼の目的は馬の原皮の売り込みでしたが、あいにく弊社では原皮の取り扱いはしていません。ただ、せっかく馬の原皮を持っているのであれば、コードバンを作れないか?とリクエストしたところからロカド社のコードバンの開発が始まりました。

 原皮という材料を自社で手配できるのはロカド社の大きな強みですが、通常原皮屋とタンナーは完全に棲み分けされています。設備も技術も全く異なる業種です。原皮屋が仕上げた革まで作るというのは、タンナーを全くのゼロから作るのと同じことだといえます。そこに敢えて挑戦するということから、ロベルト氏の熱意が伺えます。

 こうして始まったロカド社のコードバンですが、当初の品質はお世辞にも良いものではありませんでした。とても市場で売れる品質ではなかったため、こちらから改善点を列記し、数か月後にロカド社からまた改良サンプルが送られてくるというキャッチボールの繰り返しです。開発は決して順調に進んだわけではなく、3つ改善すれば2つ新たな問題が出てくる、というとにかく根気のいる作業が続きました。その後数年の開発期間を経て、ようやくロカド社ならではのコードバン技術を確立するまでに至りました。こちらの高い要求にもひとつひとつ真摯に応え、新しい技術も積極的に導入するロベルト氏の実直さと探求心があったからこそ、今日のロカド社のコードバンが存在するといえます。

 ロカド社産コードバンが誕生するまでは、コードバンといえばアメリカと日本のタンナー数社で供給のほとんどを占め、特にヨーロッパではコードバンの認知度自体があまり高くない状態でした。現在ではロカド社はコードバンタンナーとしてその高い技術が広く認められ、またその後を追って他のヨーロッパのタンナーもコードバン開発を始めるなど、ロベルト氏の熱意が確実に世界のコードバン市場を変えています。

 

開発初期のコードバン

開発初期のコードバン。

現在と全く質が異なることがわかる。

 

ロカド社のものづくり

コードバンと呼ばれますが、牛革や羊革と同じ革であることに変わりありません。食肉から出た副産物である「原皮」が、なめしという作業を経て「革」へと変わります。コードバン生産も、他の革同様、このなめしという作業から始まります。コードバンをなめす作業は、繊維を傷めないよう段階を経ながらゆっくりと時間をかけて行います。クロムなめしの革であれば1日で終わるところを、ロカド社の場合は1か月近くかけてなめしと加脂を繰り返し、革を“熟成”させていくのです。さらに、一般的な革の生産工程に加えて、コードバンでは層を「削り出す」という独自の工程が必要になります。コードバンの良し悪しを決める重要な工程ですが、技術と時間が必要な難しい作業です。まるで鉱石からダイヤモンドを削り出すように、馬革の下地からコードバンへと変化を遂げます。

こうしてようやく削り出されたコードバンですが、これでもまだ白地のキャンバスような状態です。そこにどう手を加えて芸術作品を完成させるかが、ロカド社の腕の見せ所。革の仕上げ方法には何通りもありますが、染色の仕上げでは大きくは「染料」と「顔料」の2種類に分かれます。染料は溶剤に溶けた状態ですので、革に塗布すると繊維の中に染み込んでいきます。一方の顔料は粒子が大きいため、繊維の中に染み込まずに表面に乗った状態となります。顔料は表面に膜を作るため、色を均一にする際や革の傷やあらを隠す用途には最適ですが、反面革本来の味感を損なってしまうというデメリットもあります。世界中のタンナーが、その革の特性や用途によって染料と顔料をどのように使用するか試行錯誤しているのです。そしてロカド社で使用しているのは、染料のみ。染料ですから、1枚1枚色のトーンやムラ感が異なります。それでも顔料には出せない色の深みと透明感があり、革本来の”顔”を楽しむことが可能です。コードバンといえど革。天然素材であるからゆえ、ひとつひとつ違って当たり前。傷やあらも覆い隠すのではなく、革の一部として楽しんでいただきたい。ロカド社のものづくりには、そのような考えが常に根底にあります。

染色を終えたコードバンは、最後にグレージングという工程に入ります。グレージングとは、円柱状のガラスを機械で革に繰り返しこすりつけることにより、表面を潰して強いツヤを出す作業のことを指します。ガラスに均等に革を当てなければツヤ感がまちまちになってしまいますし、一歩間違えば高速で動く機械に革が巻き込まれて台無しにしてしまう可能性もある、非常に神経を使う工程です。

コードバン1枚は小さな革ですが、それが完成するまでには幾重もの技術と時間を要する工程が必要なのです。染料仕上げによる透明感とムラ感、グレージングによる深いツヤ、そして脂を多用に含んだしっとりとしたタッチとしなやかさ、これら全ての相乗効果により、他社には真似できないロカド社だけのコードバンができあがります。